しゅごキャラ!/恐怖と至福は紙一重


「あむ」

「……」

「あーむ」

「……」

 何度名前を呼んでも、亜夢は目をきつく瞑ったきり、まったく開けようとしなかった。
 はぁ、とため息を吐いて、幾斗は亜夢の首筋に顔を埋める。

「……っ」

 首筋を舐めるように舌を這わせれば、びくん、と亜夢の身体が反応した。その弾みで、固く閉じていた目が開かれる。

「やっと開いた」

「……」

 相変わらず声は発しないものの、ようやく見れた亜夢の瞳に、幾斗は自ずと口元を綻ばせた。

「怖い?」

 くす、と嘲笑めいた言い方に、亜夢はカチンときて強気で返す。

「ぜ、全然。怖いとか、マジありえないし」

「本当に?」

 確認しながら、幾斗は亜夢のブラウスのボタンに手をかけた。どくん、と熱情が亜夢の全身にほとばしる。
 また、亜夢はきつく目を閉じた。

 怖くないと言えば嘘になる。でも強がっていないと、とてもその場を乗り切れそうになかった。

「……」

 無理をしているだろう表情に、幾斗は手を止める。ぺろ、と舌先で鼻を舐めれば、驚いたように亜夢は目を開けた。

「本当は怖いんだろ?」

「――…っ」

 かっ、と一瞬で亜夢の顔が紅潮する。亜夢が声を張り上げようとした刹那、幾斗のそれで口を塞がれてしまった。

「……ぅ、っ……」

 幾斗の舌が、亜夢の口を割って侵入してくる。まるでそれ個体で生きているかのような動きに、亜夢は恐怖を感じてしまった。

 無意識に、幾斗の胸を押しやろうと手を動かす。それに、幾斗は自身の指を絡ませた。きゅ、と幾斗が力を入れると、それに応えるように亜夢の手にも力が入る。

 亜夢の口内で、幾斗が何かを捜し求めるように動き回っていた。やがて目当てのものを発見したとばかりに、それは動き回るのをやめる。一箇所に固定して、ひたすらに亜夢と抱き合うように絡まっていた。

 遊ばせていた手を、亜夢は幾斗の耳元に添える。そっと耳朶に触れると、ぴく、とわずかに幾斗の身体が反応して唇が離れた。思わず、はぁ、と息を吐く。

「何? 誘ってンの?」

「ち、違うっ。苦しくて呼吸もできなかったから、離れて欲しくて……」

「逆効果。それって、余計に俺を煽ってるだけだって気づけよ」

「――…っ!?」

 幾斗の体重が、亜夢にかかる。深い口づけは、それだけで亜夢の気を失わせてしまいそうなほどに激しくなって。

 二人の体重で、ベッドが軋む。顔の角度が変わる度に、幾斗の髪が亜夢をくすぐる。
 身を捩ってみても、どうしても幾斗の腕からは逃げ出せなくて。

 ゆっくりと、亜夢を守る衣類が幾斗の手によって剥ぎ取られ。亜夢と幾斗を遮るものがなくなり、ひや、と冷たい幾斗の手が、直接亜夢の肌に触れてくる。それが、余計に亜夢の神経を昂らせた。

 怖い。けど、嬉しい。矛盾でしかない感情の渦の呑まれながら、亜夢は幾斗に身体を委ねる。

「あむ、力抜いて」

「……ん」

 ぺろ、と耳元を舐められて、一瞬だけ亜夢の力が抜ける。だがまたすぐに、亜夢の全身に力が入った。

「やっぱ、やめるか?」

「え……?」

 諦めたように幾斗が言われて、亜夢はすぐに泣きそうな表情になる。

「あむがつらいなら、これ以上はしたくない」

 軽く唇を合わせながら、幾斗が呟いた。
 啄むようなキスが触れる度、亜夢は心臓を締めつけられる思いがした。

 亜夢はわずかに首を横に振り、幾斗の胸に顔を埋めるように背中に手を回す。

「ぜ、全然、つらくなんかないし。さっさと挿れちゃえば?」

「……ったく。意地っ張り」

「な……!?」

 有無を言わせまいと、幾斗は素早く亜夢の唇を塞ぐ。
 亜夢が酔い痴れるような深い口づけをして、亜夢の注意を引く。

 そうして。

「――…っ?!」

 幾斗と繋いだ手に、自然と力が入るのがわかった。

 意識が朦朧とする中で、亜夢が聞いた幾斗の言葉。それが、今は尚更嬉しくて。
 愛されていることの喜びが、幾斗と一つになったことで余計に大きなものになる。

 痛みと共に芽生える喜び。産まれて初めて、幸せだと。
 心から、そう思った。


しゅごキャラ!/恐怖と至福は紙一重■END