しゅごキャラ!/剥き出しの独占欲


「りまちゃん?」

「……」

「おーい。りまちゃんてば」

「……」

 まったくこっちを向こうとしないりまに、なぎひこは深くため息を吐いた。何かしたかなぁ、と頭を悩ませるが、答えが浮かばない。
 りまを怒らせるようなことをしたつもりは、これっぽっちもないのだが。

「あ。なぎー見っけ♪」

 声と共にややが現れ、なぎひこの肩に手を置いて得意気に語る。

「見たよぉ? 下級生とキスしてたでしょ!? お安くないねぇ〜♪」

「……へ?」

 思わず、間抜けな声が出てしまった。ぴく、とりまもそれに反応したのを、なぎひこが見逃すわけがなく。
 それでか、と納得せざるをえなかった。

「あれ? りまたんも一緒だったんだ?」

「……」

「お、お邪魔しちゃった? ごめんね〜」

 なぎひこの影に隠れていたりまに気づいて、ややは慌てて去って行った。
 重苦しい空気が余計に重くなった気がするのは、多分気のせうではないかもしれない。

「一応、僕の保身のために言っておくけど。キスしたんじゃなくて、されたの。そこ、大事だから」

「お、同じじゃない……っ」

 弁解するなぎひこの言葉を制するように、きっぱりとりまは言い切る。
 違うよ、とそれに反論するも、涙目で睨まれれば胸が苦しくなった。

「なぎひこの意思があってもなくても、キスしたって事実は消えな……」

 言葉を最後までは言えなかった。なぎひこのそれで、りまの唇は塞がれていて。
 胸を押し退けようと手を伸ばせば、それに指を絡められてしまった。

 押し寄せる波が、りまを支配する。窒息しそうなほど苦しいのに、それを快感と思ってしまうのはやはり変かもしれない。

「ん……っ」

 唇の端から時折漏れる声が、尚更りまの羞恥心を奮い立たせた。
 とろけるようなキスが、りまの思考を停止させる。このままなぎひこの腕の中で沈んでしまえたら、と思ってしまう自分が浅ましい。

「愛のないキスなんて、挨拶と変わらないよ」

「……」

 耳元で、そう囁かれた。ポタポタと溢れる涙が止まらない。

 偶然りまは、なぎひこが下級生の女の子に告白されている場面に遭遇してしまった。見るつもりはなかったのに、目が離せなくて。

 断っただろう頭を下げているなぎひこを掴まえて、一方的にキスをして女の子は去っていった。その一部始終を、りまは見ていたのである。

「うー……」

 あんな一方的なのは、なぎひこが悪いわけではない。それもわかっていたのに、どうしても許せなかった。
 そうして、わかっているのに許せない自分も嫌で。結局、顔を背けることしかできなかった。

「僕がキスしたいって思うのも、抱き締めたいって思うのも、りまちゃんだけだから。りまちゃんだから抱き締めたいし、キスしたいんだよ」

 賺すように、なぎひこはそっとりまを抱き寄せて優しくそう言った。悔しいけれど、やはりなぎひこには敵わないのかもしれない。りまが安らげる言葉を降り注いでくれるのは、なぎひこだけだから。

「……でも、嫌だったのよ。しょうがないじゃない」

 すん、と鼻を啜って言えば、なぎひこは満足そうに笑った。
 何がおかしいのよ、とりまは睨む。

「妬いてくれたんだ? 嬉しいな」

「――…っ!!」

 言われて、初めてりまは自分がヤキモチを妬いていたことに気づいてしまった。
 顔から火が出そうなほどに恥ずかしい。
 ましてや、それに気づかれてしまうなんて。

「……」

「りまちゃん?」

 じろ、と睨むりまを、なぎひこが訝しげに見つめる。
 すると、ぐい、と胸倉を掴まれて、なぎひこはりまに引っ張られてしまった。

 首筋に、りまの柔らかい唇が触れる。それだけでも、もうなぎひこの理性は飛んでしまいそうだった。

「……!?」

 ちくり、とりまが吸いついた先が痛む。慣れていないのだから、それも仕方ない。

「消えたら、また……つけるから」

 か細く、俯きながらりまが言う。その恥じらいの姿さえ愛しくて。
 うん、と頷いて、なぎひこはまたりまを抱き寄せた。

 誰にも奪られたくなくて、誰にも触れて欲しくなくて。何とか自分のものだという証拠を残したくて、夢中でつけたキスマーク。

 初めてつけたそれは、独占欲の塊だった。


しゅごキャラ!/剥き出しの独占欲■END