しゅごキャラ!/毎日が戦争


 深夜3時。赤ん坊の泣き声で、歌唄は目を覚ました。

「ぅ、ん……。ちょっと待って」

 泣きじゃくる心彩みいろを抱き上げて母乳を吸わせると、ようやく心彩は泣くのを止めた。
 欠伸が出そうになって口元を押さえると、不意に背中に温もりを感じる。

「あ……。ごめん、起こしちゃった?」

「ん。大丈夫」

 歌唄にもたれかかるように、空海が後ろから抱き締めている。心地よい温もりに、歌唄は幸せを感じていた。

「……大変だよな、女は」

 しみじみと、空海は思う。
 日中からずっと、2〜3時間置きに面倒を見なければならない。それは、深夜になっても変わらないことで。

「でも……幸せよ、あたし」

 首だけを動かして、歌唄は空海を見つめる。

「空海が、側にいてくれるから」

 言われて、空海はそっと歌唄に唇を落とす。
 触れるだけのキスをして、空海は歌唄から離れた。歌唄に抱かれている心彩の頬に、指先で触れる。

「……母乳って、美味いのかな」

 素朴な疑問を、空海は呟く。

「美味しくないと思うわよ、大人には」

「ふぅん。でも、心彩が羨ましいな」

「え?」

「堂々と、歌唄のおっぱいを吸えて」

 空海の言葉に、歌唄の頬が赤くなる。

「ち、ちょっと。いやらしいこと言わないでよね」

「何で? 素直な感想だろ」

 母乳を飲みながら眠りに着いた心彩の口から、歌唄の乳首が外される。すると心彩の顔に、ポタポタと母乳が垂れてきた。

「すげぇ。何もしてないのに垂れてる」

「……あんまり見ないで」

 心彩を起こさないように気を遣いながら、歌唄は捲り上げたブラジャーを元に戻す。そうして、ベビーベッドにそっと心彩を寝かせた。

「この顔を見てると、頑張らなくちゃって思うの」

 優しく頭を撫でて、歌唄は心彩を見つめる。子供の寝顔というのは、何故こんなにも癒されるのだろう。夜中に起こされても嫌にならないのは、この寝顔を見ることができるからかもしれない。

◇ ◇ ◇


「うぉっ。う、歌唄、心彩がゲロ吐いた」

 心彩を抱っこしていた空海が、慌てて歌唄に近寄る。

「拭いてあげてよ」

「いや、そうじゃなくて。病院行かなくても平気か?」

「……」

 おろおろする空海に、歌唄は深くため息を吐く。

「赤ちゃんの胃は、大人と違ってもどしやすい形になってるの。いちいちそんなことで騒がないで」

 空海を一瞥して、歌唄は言い放つ。へぇ、と珍しそうに、空海は心彩の口元を拭いてあげた。
 空海を見ていると、先が思いやられる。はぁ、と歌唄は再度ため息を吐いた。



「歌唄、歌唄っ」

 食器を洗っているところへ、またも空海が近づいてくる。一人で生活をしている方が楽かもしれない、と思う。

「今度は何!?」

「心彩、臭い。たぶん、してる」

「……オムツ替えてあげなさいよ」

 イライラを通り越して、呆れてしまう。
 こんなことまで、全部説明しなければならないのだろうか。

 食器を洗うのを止めて、歌唄は空海の様子を見る。悪戦苦闘しながらも、空海は一生懸命、心彩のオムツを替えていた。
 いいな、こういうの。思って、歌唄の口元に笑みが溢れる。慣れない空海も、中々に可愛くて。懸命に心彩の世話をする空海が、思っていたよりもずっとパパらしく見えて。

 オムツを替えて、空海が心彩を抱き上げると、とろん、とした目つきになった。そうして抱っこしたまま家の中を歩き回ると、10分もしない内に心彩は寝入ってしまった。
 起こさないように、ゆっくりとベビーベッドに寝かせる。歌唄も言っていたが、本当にこの寝顔を見ているとそれまでの疲れが飛んで行ってしまうように癒される。すやすやと寝息を立てる我が子が、とても愛しい。



「お疲れさま」

 ことん、とテーブルの上に、歌唄はコーヒーを置いた。

「サンキュ」

 首を鳴らしながら、空海は椅子に腰を下ろしてカップを手に取る。

「どお? 初めての子育ては?」

 空海の正面に座って、歌唄は口を開く。

「すっげぇ大変。やっぱ、女ってすごいわ」

 はぁ、と肩の力を抜いて空海は言う。

「今日は、お風呂もよろしくね」

「へい」

 にっこり微笑んで言われたら、断ることなんてできるはずもない。歌唄の喜ぶ顔が見られるのなら、と空海は思う。子育ては大変だけど。歌唄が、笑っているから。

 コーヒーを飲み干して、空海は立ち上がる。そして座ったままの歌唄に、顔を近づけた。

 そのとき。

「あぁぁぁんっ」

 大きな心彩の泣き声が、部屋中に響いた。キスをする一歩手前で、がく、と空海の肩が落ちる。

「今寝かしたっつーの」

「そういうもんよ、赤ちゃんて。でも」

 ぐい、と空海の腕を引っ張って、頬に軽く口づける。

「頑張ったから、ご褒美ね」

 ウインクをして、歌唄は空海を見つめる。

「ご褒美は、夜のが……」

「だーめ」

 はぁ、と再度肩を落として、空海は泣き続ける心彩のところへ駆けて行った。

 せっかくだから、今日はとことん面倒を見てやる。気合を入れ直して、空海は心彩を抱き上げたのだった。


しゅごキャラ!/毎日が戦争■END