しゅごキャラ!/君へのサプライズ
「いないなぁ……」
はぁ、と息を吐き出せば、白かった。
亜夢は、そっと鞄の中から綺麗にラッピングされた包みを取り出した。
「……今日中に、渡したかったな」
ぽつり、と寂しげに呟いて、亜夢はまたその包みを鞄に戻す。また、はぁ、とため息を吐いて、亜夢は家路に着いた。
机の上に置かれた包みを見て、亜夢はため息を繰り返す。
(せっかく、頑張ったのに……)
思いながら、亜夢は包みを広げた。
初めて、手編みのマフラーを作った。不器用ながら、一生懸命。途中、何度も挫けそうになりながら、それでも、どうしても作りたくて。
端の方に刺繍された、I.Tのイニシャル。まっすぐな文字でよかった、などと思いながら懸命に刺繍したことを思い出して、目尻に涙が浮かんできた。
きゅ、と唇を結んで、マフラーを包みごと握り締め、馬鹿っ、という言葉と共に窓に叩きつける。
「今日じゃなきゃ、意味がないのに……っ」
クリスマス・イヴだから。どうしても、今日中に渡したかったのに。
いつもいるはずの公園にも、幾斗はいなくて。散々歩き回って捜したのに、どこにも見当たらなくて。
結局、渡す相手のいないプレゼントを、そのまま持ち帰ってきたのである。
ぼふ、と投げるように身体をベッドに預けて、亜夢は目を閉じた。そっ、と涙がこめかみを伝う。
「……馬鹿」
誰にも聞かれることのない言葉を呟きながら、亜夢は夢の世界へと堕ちていった。
「……ん」
目を擦りながら、亜夢は身体を起こす。泣きながら眠ったせいか、瞼が重い。
んー、と体を反らせて背伸びをしてから、枕元に置かれた小さな箱に目が入った。
「サンタさん?」
くす、と微笑んで、亜夢はその包みを手に取る。きっと、両親だろう。
毎年、必ず枕元にサンタクロースからのプレゼントが置いてある。それを手にしてリビングに下りれば、紡がいつもそわそわしているから。
亜実がサンタクロースを信じているから、亜夢も敢えて何も言わずにいるが、両親からだということには気づいていた。
「おねいちゃーん!」
ばたん、と大きくドアが開かれて、亜実が入ってきた。
「あみのところにね、サンタさん来たよっ」
ほっぺたを真っ赤にして、嬉しそうな亜実を見ていると、こっちまで癒される。
「よかったね、あみ」
そう微笑めば、うん、と満面に笑みを浮かべて、亜実は頷いた。
「おねいちゃんのも、大っきいね」
「え?」
亜夢が手に持っているそれは、決して大きいとは言えない。どちらかと言えば、小さい部類だと思うのだが。
とたとた、と室内に入ってきた亜実は、ベッドの下に置かれた大きな袋を手に取った。
「開けてもいい?」
「え? あ、だ、だめよ。それはお姉ちゃんのでしょ? あみは、先に階下に行ってな。お姉ちゃんもすぐに下りてくるから」
「はーい」
大きく返事をして、亜実は亜夢の部屋から出て行った。
ベッドの脇に添えられたプレゼントが両親からの物だとすると。今、亜夢の手中にある物は。
「……」
ゆっくりと、亜夢はラッピングを解いていく。もしかして、と期待が高まる中、手が震える。
箱の中には、星をモチーフにしたネックレスが入っていた。
「……イクト?」
亜夢の中の期待が高まっていく。両親からではない、枕元に置かれていたプレゼント。たぶん、きっと。
そのとき、携帯が鳴って。亜夢は、びく、とその身を震わせた。
慌てて、机の上に置かれた携帯を手に取る。着信名を見て、ふ、と口元が緩んだ。
「もしもし?」
強気な声で、そう言ってみる。昨日、会いたくて会えなかった、幾斗に。
『マフラー、ありがとな』
「え?」
電話口から聞こえてきた幾斗の言葉に目を丸くして、亜夢は室内を見渡した。
昨夜、窓に向かって投げつけたはずのマフラーが、ない。
「も、持ってっちゃったの?」
『ああ。だって、俺のだろ?』
「……」
確かに、幾斗のために作ったのだが。
それ以前に、何故わざわざ来たなら、起こしてくれなかったのだろう。
『一昨日から、日本を離れてて。昨日、少しだけ時間が作れたんだけど、最終の飛行機しかなかったから夜が遅かったんだ』
「起こしてくれればよかったのに」
きゅ、と唇を噛み締めて、亜夢は呟く。会いたかったのに、とは言えなくて。そう言うのが、精一杯だった。
『あむの無邪気な寝顔見てたら、起こしづらかったんだよ。でも、俺はちゃんとあむに会えたから』
「あたしは、会ってないよ」
『あれ? もしかして、俺に会いたかった?』
「は、はぁ!? そんなわけないじゃんっ」
瞬間、亜夢の頬が紅潮する。こうしてからかわれてしまうと、腹が立って。やっぱり、素直にはなれそうもない。
『そ? じゃあ、帰るから』
え、と驚いて、亜夢は窓の外に目をやった。
そこには、亜夢が幾斗のために編んだマフラーを首に巻いた、幾斗がいて。穏やかに、部屋の中にいる亜夢を見つめていた。
『出てこいよ。今日の最終で、また日本を発たなきゃならないんだ』
「……馬鹿猫」
亜夢が断れないのを、幾斗は見抜いている。でも、断る理由さえ、亜夢にはなくて。
急いで支度を済ませて、部屋を出ようとしたときに、あ、と亜夢は思い出したように、その身を翻した。
机の上に置かれた、小さな箱。その中から、ネックレスを取り出して。
嬉しそうに口元を綻ばせながら、亜夢は幾斗の元へ走って行ったのだった。幾斗から貰ったネックレスを、首にかけて。
しゅごキャラ!/君へのサプライズ■END