しゅごキャラ!/大遅刻のサンタクロース


「あれ、ほしな歌唄じゃない?」

「本当だ。彼氏待ちかな?」

「ほしな歌唄の彼氏って、ちょっと興味あるかも」

「言えてるー」

 12月24日。歌唄は、待ち合わせ場所で口々に囁かれる言葉を、一人聞いていた。
 腕時計に視線を落とせば、すでに予定時刻より30分経過していて。はぁ、と白い息を吐き出して、歌唄は被っていた帽子の鍔を、少しだけ下げた。

(……何、やってるのよ?)

 突如、不安が歌唄を襲う。1分、1秒が待ち遠しくて。

 何て文句を言ってやろう、と考えていても、もし事故にでも遭っていたら、と危惧の念が抱かれる。無事で、ここに来て欲しい。他には、何も望まないから。

 きつく、歌唄は目を閉じてそう思った。その時、目の前に人の気配を感じて、歌唄は目を開けた。視線の中に、見覚えのある靴が映る。

「わ、るぃ……」

 はぁ、と肩で呼吸をしながら、空海がそう言う。どれだけ走ってきたのだろう。相当疲れている空海の様子に、歌唄は文句の一つも言えなくなってしまって。ただ、来てくれたことに安堵してしまった。

「……事故にでも、遭ったのかと思った」

 ぽつり、と呟かれて、ようやく顔を上げた空海の瞳に映ったのは、憂いに満ちた歌唄の表情だった。目尻に涙を浮かべ、涙を堪えているのがわかる。
 ごめん、と声をかけて、空海は着ていたダウンジャケットの中に包み込むように歌唄を抱き締めた。

「プレゼント選んでたら、時間、なくなって。結局、大した物は買えなかったんだけど……」

「いらない」

 きゅ、と歌唄は空海の背中に腕を回す。

「来て、くれたから。もう、何もいらない」

「……ごめん」

 心配で、堪らなかった。このまま、もう二度と会えなかったら、という不安が押し寄せてきて。周りの声も、それを煽るように歌唄に伸しかかっていたから尚更だ。

 顔を上げれば、空海の唇が落ちてきて。ダウンジャケットの中、二人は何度も口づけを交わした。待たせてしまった時間を、補うように。不安を、打ち消すように。

 何度も何度もキスをして、お互いの存在を確認した。そうすることで、安心が生まれる。

「……愛してる」

 キスの合間に、空海にそう囁かれて。きゅぅ、と歌唄は胸が締めつけられそうになった。

 言葉だけでは、足りなくて。ただ今は、きつく抱き締めて欲しくて。側にいることの安らぎを、感じていたかった。

 プレゼントを貰うのも、もちろん嬉しいけれど。大好きな人と一緒に過ごせることが、何よりのクリスマスプレゼントになる。空海の遅刻は、歌唄にそのことを気づかせてくれた。

 一緒にいられる時間が、今までよりもずっと神秘的なものに感じて。
 ともに歩むことは、もしかしたら奇跡に近いのかもしれない、と。歌唄は、そう痛感したのだった。


しゅごキャラ!/大遅刻のサンタクロース■END