しゅごキャラ!/贅沢だと言われても


「りまちゃん。24日って、暇?」

「……」

 唐突になぎひこに言われて、りまは目を丸くした。

 12月24日、クリスマス・イヴ。それは、恋人たちにとっては一つのイベントごとである。
 なぎひことりまも、例外ではないと思うのだが。

「……忙しいわ」

 冷たくそう言って、りまは目の前のカップを手に取る。

「そう言わずに。少しだけでも、会えないかな?」

「……」

 内心、嬉しくて仕方がないはずなのに。そんな感情はおくびにも出さないで、りまは平然と答えた。

「少し……だけなら。時間、取れなくもないかも」

「本当に? よかった」

 ほっとした様子のなぎひこに、りまも少しだけ口元を緩めた。
 クリスマスイヴに誘われて、やはり期待するなという方が無理なわけで。
 用意していたなぎひこへのクリスマスプレゼントが無駄にならずにすんでよかった、と心の中でりまは安堵した。

◇ ◇ ◇


「で。どうして、なでしこなわけ?」

 ぴく、と眉を引きつらせて、りまは待ち合わせ場所に姿を現したなぎひこならぬなでしこに怒りを露にした。

「ご、ごめんなさいね、りまちゃん。今日、私の講演があって。着替えて来ようと思ってたんだけど、ちょっと予定が押しちゃって。りまちゃんを待たせるのも悪いし、そのまま出て来ちゃったの」

 もう一度、ごめんね、となでしこはりまに謝る。

 はぁ、と深くため息を吐いて、りまは隣に佇むなでしこを見やった。
 何が悲しくて、クリスマスイヴに女の子同士でデートをしなければならないのか。少しでも楽しみにしていた自分が馬鹿みたいではないか、と半ばイライラしながらも、りまは何も言わずにじっとなでしこを見つめていた。

「り、りまちゃん……?」

 それが、どうしても羨望の眼差しには見えなくて。なでしこは、恐る恐る声をかけた。

 手を繋いで歩いていても、それは傍目にはデートには見えなくて。もちろん、当人同士の問題なのだから、誰にどう見られても構わないのだが。

「何か、用があったんでしょ?」

 ぱさ、と顔にかかる髪を除けながら、平然とりまが聞く。

「う、うん。クリスマスプレゼントを、あげたくて」

「いらない」

 きっぱりと言い切って、りまはなでしこに背を向けた。

「りまちゃん、待ってっ」

 そんなりまの腕を慌てて掴んで、なでしこは顔を覗き込む。潤んだ瞳のりまに、え、と戸惑ってしまった。

「あたしは、なぎひこに会いに来たの。なでしこに会いに来たんじゃないわっ」

「……」

 その一言が、なでしこの心にグサっと突き刺さって。
 走り去るりまを追うこともできず、どれだけりまを傷つけてしまったのだろうか、と自分を責めるしかなかった。

◇ ◇ ◇


「りまは?」

 背広を脱ぎながら、帰ってきたばかりのりまの父親が、母親にそう訊ねた。

「友達と約束してるからって、1回出かけたんだけど。帰ってきてから、ずっと部屋に閉じこもっちゃって」

「……ケンカでもしたかな?」

 不安そうな表情で、父は階段の下からりまの部屋を見つめた。
 きっと、今はそっとしておいた方がいいのかもしれない。思って、父も母も無理にりまの部屋に行くことはしなかった。

 その両親の判断は、正しいものであった。りまは、帰ってきてからずっと、枕に顔を押しつけて嗚咽を洩らしていた。広い部屋が、余計にりまの孤独を大きくする。
 今は、誰とも会いたくなかった。

 かつん。

 音がして、りまは顔を上げた。気のせいか、とまた枕に顔を埋めると、かつん、とやっぱり音がして。
 りまは起き上がり、窓を開けて下を見た。

「……あ」

 りまの部屋の下で、一人佇む少年と目が合って。りまは、尚更悲しくなってしまった。

「ごめんね、りまちゃん。会いたくないだろうと思ったんだけど。どうしても、プレゼントを渡したくて」

 手に持っていた紙袋を地面に置いて、じゃ、となぎひこは踵を返した。

「――待ってっ」

 声に、なぎひこが振り返った瞬間。窓から、りまが飛び降りて来て。慌てて、なぎひこはりまの落下地点へ駆け寄り、りまを受け止めた。

 とはいえ、2階からの落下は、やはり軽いものではなくて。相当の衝撃が、なぎひこを襲ったのだが。

「ひ、っく……。う……」

「……」

 泣きながら、必死になぎひこにしがみつくりまを見ていたら、そんなことはどうでもよくなってしまって。
 ごめんね、と囁きながら、なぎひこは優しくりまの頭を撫でた。

 クリスマスは、やっぱり好きな人と過ごしたいから。中身は同じだとしても、どうしても今日だけはちゃんとした姿で抱き合いたくて。

 りまの頬に手を添えて、なぎひこはそっとりまを離す。親指でりまの涙を拭ってやり、ゆっくりと唇にキスを落とした。
 地面についた手が、どちらからともなく相手を求めてしまって。指をきつく絡ませ合えば、そこに互いがいるのだ、と安心する。

「メリークリスマス、りまちゃん」

「……うん」

 唇を離して、なぎひこはりまを見つめる。それからもう一度、唇を重ねた。そんな二人の影を、夜の月が静かに包んでいた。


しゅごキャラ!/贅沢だと言われても■END