しゅごキャラ!/幸せの音
「はぁ、はぁ……」
着慣れない振袖に、履き慣れない草履。それが尚更、亜夢の足を遅くさせた。
待ち合わせ場所では、すでに幾斗が待っていて。それを見つけると、亜夢は唾を飲み込んで大きく息を吐き出した。
「ご、ごめ……ん」
肩で息をしながら、亜夢は幾斗の前で止まった。
膝に両手を当て、身体をくの字型に曲げる。呼吸が整うまでは、この体勢は崩せないかもしれない。
「あむ、顔上げて」
「へ?」
言われて顔を上げれば、不意に唇に冷たいものが触れた。亜夢の目に、満足そうな幾斗の顔が映る。
「可愛いよ」
「――…っ」
ぼっ、と火が点いたように、亜夢の顔は一瞬で赤く染まった。たとえ時間がかかっても、振袖を着てきた甲斐があるというものだ。
「……ぷ」
「!?」
真っ赤になった亜夢がおかしかったのか、幾斗は噴き出した。またからかわれてしまったのかと思うと、怒りで余計に頬が紅潮してしまう。
「怒んなよ。脱がせたあとは大変そうだけど、可愛いと思ったのは事実なんだから」
「……」
ぽんぽん、と宥めるように幾斗は亜夢の頭を撫でる。それだけで黙ってしまうのは、やはり亜夢の扱いが上手いということなのか。
「……ていうか、脱がせる必要、なくない?」
「あれ? 俺に言わせたい?」
「う、うっさい、エロ猫!! さっさと初詣に行くよっ」
林檎のように顔を赤くした亜夢は、くく、と腹を抱えて笑う幾斗の手を掴んで神社に足を向けた。
がらんがらん、と鈴を鳴らし、手を叩いて軽く頭を下げる。ちら、と薄目を開けて、亜夢は隣で同じようにお参りをしている幾斗に目をやった。
「何だよ?」
視線に気付かれたのか、幾斗が目を開けて亜夢を見る。思わず、ばっ、と視線を反らしてしまった。
「な、何でもないよ」
慌てて、亜夢は幾斗に背中を向ける。不意に見られると、何故かドキドキしてしまって。上手く、幾斗を見ることができない。
「わ……っ」
慣れない振袖の為か、少しの段差に亜夢は躓いてしまった。それを、すぐに幾斗が支えてくれる。
「……」
声にならないようなか細い声で、ありがとう、と呟けば、優しい笑顔が降ってきた。勝ち負けの問題ではないのに、負けた気分になるのはどうしてだろう。
「何を、お願いしたの?」
幾斗の腕に支えられたまま、何気に思ったことを聞いてみた。素直に答えてくれるような人ではないが、どうしても気になってしまって。
「あむとずっと、一緒にいれますように」
「……」
耳元で幾斗の吐息と低い声が響いて、身体の底からゾクっとした。嬉々として、自然と笑みが零れる。嘘でも、その台詞が嬉しくて。
自ずから、指先を絡ませ合う。そこから、愛の言葉を囁かれている錯覚に陥ってしまった。心が、フワフワと浮ついている。
見上げれば、幾斗の唇が落ちてきた。きゅ、と繋いだ手に力を込めて、亜夢はそれを受け入れたのだった。
しゅごキャラ!/幸せの音■END