しゅごキャラ!/ただ声が聞きたいだけ


 夜、月を眺めていると。どうしても、亜夢には思い出される男性がいて。
 月夜の光を浴びながら、亜夢の目にはいつも涙が込み上げていた。

 手の中に忍ばせた携帯を見つめ、そっとキスを送る。それだけが唯一、亜夢と幾斗を繋ぐ道具だった。

「……会いたいよ、馬鹿猫」

 きゅ、と愛おしむように携帯を抱き締めながら、亜夢はまた月を見上げた。

 会いたい。声を聴きたい。

 思っていても、そんな可愛らしい台詞が亜夢の口から出るわけもなく。電話をかけてくるのは、いつも幾斗からで。
 待ち侘びていたのを覚られないように振舞うのが、精一杯だった。

「電話……、かけてきてよ」

 そう、亜夢が呟いたときだった。まるで亜夢の呟きを聞いていたかのように、携帯が音を響かせた。驚きながらも慌てて、亜夢は通話ボタンを押す。

『よぉ』

「……」

 それは、待ちに待った幾斗からで。嬉しすぎて、思わず安堵の息が漏れてしまった。

『ため息? ひでぇな』

「ち、ちが……っ。ため息なんかじゃ……」

 言おうとして、亜夢は口を噤む。わざわざ言い訳するなんて、何となく負けた気がする。
 もう一度、今度はわざとらしくため息を吐いた。

「いつもいつも、何の用なわけ? あたしだって、暇じゃないんだから」

 ああ、まただ。また言ってしまった。

 思ってもいない台詞が、どうして出てしまうのだろう。こんなことが言いたかったわけではないのに。

『声が、聴きたかった』

「――…」

『あむの声を聴いてると、落ち着くから』

 幾斗の言葉に、亜夢は目頭が熱くなるのを感じていた。

 こうやって、幾斗はさらっと亜夢が嬉しくなる言葉をくれるのに。亜夢は、いつも憎まれ口を叩くことしかできなくて。そうして、電話を切っていつも後悔するのである。
 でも、今日こそは。

「……あたしも」

『え?』

 ごく、と唾を飲み込んで、携帯を握る手に力を込める。

「声、聞きたかった……よ」

『……』

 一生分の勇気を使い果たした気分だ。自分の気持ちを素直に口にすることが、こんなに勇気のいることだったなんて知らなかった。

『今、目の前にあむがいなくてよかった』

「はぁ!?」

 せっかく勇気を振り絞って言ったのに、と声を荒げようとした亜夢よりも先に、幾斗が言葉を続けた。

『俺、たぶんすげー真っ赤。あむが、可愛いこと言ってくれるから』

「……!」

 幾斗の言葉に、亜夢は一瞬で赤くなる。やっぱり幾斗には敵わないな、と思ってしまった。


しゅごキャラ!/ただ声が聞きたいだけ■END