しゅごキャラ!/僕が知っていればそれでいい


 父の出張土産に、トワレを貰った。ふんわり大人の香りがして、気分が上昇する。
 しゅ、と自身に吹きかけて、大人の香りに包まれながらりまは学校へ向かった。

「りま、おはよ」

「……おはよう」

 ぽん、と肩を叩かれて振り向けば、亜夢がいた。
 取り留めのない会話をしながら、次には唯世、そしてややが寄ってきて。しばらく会話をするも、依然としてりまの香りには誰も気づかない。無意識に、眉間に皺が寄ってしまった。

「り、りま?」

 相当不機嫌な表情をしていたのだろう。恐る恐る、亜夢が話しかけてきた。

「……何?」

「お、怒ってる?」

「別に」

 嘘だ、と亜夢は思ったが、それ以上口にすることさえ恐ろしくて。そのまま、口を噤んでしまった。

 結局、りまは放課後まで機嫌を損ねたままであった。ロイヤルガーデンで紅茶を啜りながらも、不機嫌な表情は消えない。親衛隊の男の子たちも、誰一人として気づかなかった。たった一人でもいいから、気づいてほしかったのに。

「あれ?」

 かたん、と音がして、りまは顔を向けた。

「一人? 他のみんなは?」

「さぁ。知らない」

 なぎひこに問われ、りまは静かに紅茶を口に含みながら答える。確かに、りまに紅茶を出した時までは亜夢も唯世もややもいた。だがそれ以降、言われてみるといない気がする。大方、不機嫌なりまの守りは勘弁、とでも言わんばかりに逃げ帰ったのだろう。友達思いのない連中だ。

「……」

 心の中でそう悪態づいているときだった。なぎひこが、優しくりまの髪を撫でたのである。

「機嫌悪そうだけど。どうかした?」

「……別に」

 ああ、やっぱりか。この人でさえも、気づいてくれない。じわり、と涙が浮かんでくるのがわかった。今朝はあんなにウキウキしていたのに、今は最悪だった。
 トワレなんて、つけて来なければよかった。そうすれば、こんなにも嫌な気分になることはなかったのに。

 急に泣きだしたりまの頭を撫でながら、そっとなぎひこは抱き寄せる。そうして背中を擦りながら、口を開いた。

「優しい香りだね」

「……え?」

 ばっ、となぎひこから離れ、りまは驚いた面持ちでなぎひこを見つめる。

「ん?」

「い、今……」

「何?」

「……」

 あまりにも自然に言われてしまったが、きっとなぎひこは気づいている。そのことが、尚更りまの涙腺を緩ませた。その様子に、もしかして、となぎひこはりまの顔を覗き込むように身を屈ませる。

「不機嫌の理由って、これ?」

「……どうしてわかるの?」

 りまは、なぎひこを上目遣いに睨む。

「僕だから、じゃないかな」

「え?」

 一笑して、なぎひこは再度りまを胸の中に引き寄せた。

「りまちゃんの些細な変化に気づけるのは、一人いれば十分でしょ?」

「……うん」

 なぎひこの言うとおりだった。
 他の誰が気づかなくても、なぎひこにだけは気づいてほしくて。その願い通り、なぎひこは気づいてくれた。
 さっきまでは悲しくて仕方がなかったのに、今は嬉しくて。止めどなく溢れ出る涙は、すべてなぎひこへ向けられたものだ。

 大好きだよ、と時折耳元で囁きながら、なぎひこはりまの涙が止まるまで、ずっとりまを抱き締めてくれていた。


しゅごキャラ!/僕が知っていればそれでいい■END