しゅごキャラ!/静かな起爆


 亜夢は、幾斗のベッドの上に座って本を読んでいた。

「――…。ねぇ、何か言った?」

 不意に声が聞こえた気がして、本を読む亜夢にべったりとくっついている幾斗に問うたが、いや、と気のない返事しか返ってこない。
 おかしいな、と首を傾げ、亜夢は再度手の中の本に目を通す。

『あ……っ』

 今度は、絶対に確実だ。間違いない。隣の歌唄の部屋からだ。

「ね、ねぇ。今の、歌唄の声じゃなかった?」

「あー……。たぶん」

「大丈夫かな? 何か、驚いたような声だったけど。見に行った方がよくない?」

「……ま、驚いたには違いないだろうケド」

「?」

 幾斗の曖昧な言い回しが、どうにも亜夢には伝わらない。様子を見に行こう、と亜夢は腰に回された幾斗の手を退けようとするが、幾斗の手はがっちりと亜夢の腰にはまっていて、なかなか抜けない。

「放してよ。歌唄のこと、気にならないの?」

「気になると言えば気になるけど、お前の気になるとはちょっと違う」

「……意味わかんない」

 はぁ、と訝しげな顔をして、亜夢は幾斗を見る。亜夢の腰から手を離し、ぽりぽりと頭を掻きながら幾斗は口を開いた。

「たぶん、空海と一緒だと思う」

「そうなんだ。じゃ、大丈夫だね」

「……あむの大丈夫とは違う気がするけど」

「何なのよ、それ」

 幾斗の言い回しに、だんだんと亜夢もイライラしてくる。何が言いたいのか、まったく亜夢には伝わらなかった。

「だから、さ……」

 幾斗からの説明を受け、亜夢の顔はありえないほど赤く染まった。

 つまり、空海と二人で歌唄の部屋にいて。亜夢が聞いた歌唄の声は、情事の最中の声、だったわけで。

 幾斗から説明を受けるまでそのことにまったく気づけなかった自分も恥ずかしいが、幾斗にそのことを説明させてしまった自分は、もっと恥ずかしい。

 そんな亜夢に、幾斗はまるで家猫のように寄り添っている。

「……何もしねーよ」

 亜夢の気持ちに気づき、幾斗はそう言う。きっと少なからず、幾斗もそういうことを考えているのだろう、ということに、亜夢は気づいてしまった。それで亜夢は口も開かず、身を固めてしまったのだ。

「で、でも……。イクトも考えてるんでしょ、そういうコト?」

 顔を真っ赤にして、俯きながら亜夢は言う。ふぅ、と息を吐いて、幾斗は両手で優しく亜夢を包み込みながら答えた。

「そりゃ、ゼロじゃない。でも、焦ってもいない」

「……」

「今まで待ったんだ。もう少しくらい、待てるさ」

 あむが、俺を受け入れてくれるまで。

 幾斗の言葉は、驚くほど亜夢の心に、すとん、と収まった。そういうことを考えると、本当は怖い。でも、それを言ってしまうと、きっと幾斗を傷つける。だから迫られても、亜夢は拒否しきれなかった、と思う。

「他の子と、って……、考える?」

 心に芽生えた不安を、亜夢は正直にぶつける。待てるとは言ってくれたものの、不安にならずにはいられなかった。

「俺は、女とヤりたいんじゃなくて、あむとヤりたいんだぜ。あむだから抱き締めたいと思うし、離したくない」

 亜夢を抱き締める腕に力を込めて、幾斗は言った。頬の温度が上昇するのが、手に取るようにわかる。涙が出そうなほど、嬉しくて。

 幾斗が触れたいと思うのは、愛の言葉を囁きたいと思うのは、亜夢だけ。たった一人の、愛する亜夢だけに、幾斗のすべてを捧げたい。
 そういう幾斗の気持ちが、痛いほどに伝わってくる。

「……うん」

 抱き締める幾斗の手に、自分の手を重ねて亜夢は頷いた。大丈夫。きっと、いつか幾斗を受け入れられる。
 それは、そう遠くない未来の出来事。


しゅごキャラ!/静かな起爆■END