しゅごキャラ!/さて、いつ伝えよう?


「やーん、可愛いー♥」

 少し洒落た雑貨屋で、ややは目移りしながら品物を見ていた。

「どれ買おうかな~?」

 楽しそうに品定めをしながら、ややは色々な商品を手に取る。その姿を、亜夢は黙って見つめていた。

「あむちも、どれか買わない?」

 不意に声をかけられ、亜夢はややに近寄る。

「うーん。じゃ、これかな?」

 側にある商品の一つを取り、亜夢はじっと見る。

「ほぅほぅ。まるで、イクトをイメージしたようなリスバンですなぁ♪」

「はぁ!?」

 そういうつもりは、まったくなかったのだが。

 亜夢が手に取ったのは、黒を基調とした、十字架がモチーフのリストバンドだった。シンプルで、普段の亜夢の格好にも似合うだろう、と思って手に取ったのだが。

「あむち、唯世が好きなんだと思ってたけど。実は、イクトのことが好きだったんだねぇ♪」

「ち、違うって! もー、買わないっ」

 耳まで紅潮させて、亜夢は手に取っていたリストバンドを棚に戻した。ふい、とややから顔を背けて、亜夢は店を出る。

「待ってよ、あむちぃ~」

 そのあとを、慌ててややがついてきた。

「ごめんってば~」

 可愛い笑顔を見せて、ややは謝る。別に、ややが悪いわけではない。

「でもさ……」

 ちら、と機嫌を窺うように亜夢の顔を見ながら、ややは口を開く。

「実際のとこ、どうなわけ? あむちは、どっちが好きなの?」

 ややに聞かれて、亜夢は言葉に詰まる。唯世、と答えたいのに、それを否定する自分がいた。

 黙り込んでしまった亜夢を見て、ややは困る。聞いてはみたものの、どう対処していいかわからない。

「え、え~と……。あむちー?」

 そっと顔を覗き込んでみるが、亜夢は無表情のままだ。

 困ったように頬をぽりぽりと掻いていると、たぶん、と亜夢が口を開いた。

「たぶん、……イクト」

 いつの間にか、亜夢の中で幾斗の存在が大きくなっていた。唯世に対する気持ちは変わらないが、それ以上に幾斗への慕情が募ってしまっていたのだ。

 初めて言葉にして、思いの外、亜夢の心は晴れ晴れとしていた。はっきりと言葉にしたせいで、亜夢の心にかかっていた靄が晴れたように、すっきりしている。
 いつの間に、こんなに好きになっていたのだろうか。いつから、こんなにかけがえのない存在になっていたのだろう。

「へぇ。知らなかったな」

「……!!」

 不意に、亜夢の背後から声が聞こえて、亜夢は固まった。

「おや。イクトさんじゃないですか~」

 驚いたように、ややは幾斗を見る。そして、亜夢と幾斗を見比べながらにっこりと笑う。

「邪魔者は、退散しまーす。ごゆっくり~♪」

「ちょ……、ややぁ!?」

 足早に去っていくややに手を伸ばしながら、亜夢は名前を叫んだのだが。聞こえていたとしても、この状況でややが立ち止まるわけがない。すたこらと逃げ出すように、ややの姿は見えなくなった。

「楽しそうな話をしてたな、あむ?」

「……」

 幾斗の言葉に、亜夢は何も言わずに俯いているだけだ。まさか、一番聞かれたくないことを、一番聞かれたくない人に聞かれてしまったなんて。

「あーむ」

「ぎゃああああ!!」

 背を向けたままの亜夢に業を煮やして、幾斗は後ろから亜夢の耳に噛みついた。瞬間、可愛くない亜夢の悲鳴が辺りに響き渡る。

 耳を押さえて、亜夢は幾斗を向いた。

「やっと、こっちを向いたな」

 優しく微笑まれれば、耳を噛まれたことを忘れてしまいそうになる。意地悪なことをされても、その笑顔があれば何でも許してしまうかもしれない。

「さっきの……本当?」

 愛しそうに亜夢を見つめながら、幾斗は問うた。

「う、嘘に決まってんじゃん!」

「あむは、友達に嘘吐くんだ?」

「時と場合によるの!!」

 顔を真っ赤にしてそう叫べば、今の亜夢の言葉が照れ隠しだとすぐにわかる。
 くっくっ、と声を殺して笑えば、亜夢は更にそれに対しても怒鳴った。

「笑うな!」

 その姿さえも、今は愛しい。笑うことを止めて、幾斗は亜夢の頭を、ぽんぽん、と軽く叩いた。
 恥ずかしそうに怒りの目を向ける亜夢が、とても可愛い。天邪鬼な亜夢が、誰よりも愛しい。

 幾斗が手を差し出せば、躊躇いながらも亜夢はそれに手を重ねる。そうして手を取り合って、家路に着いた。ちゃんと言葉で伝えてはいないけれど、きっと亜夢の気持ちは伝わっている。
 亜夢が、幾斗を好きだという気持ちは。

(……そのうち、ね)

 いつか、言える日が来ると思うから。その時が来たら、きっと言葉にするのも恥ずかしくなくなるだろうから。

 だから、もう少しだけ。
 このままの距離でも構わないから。離れて行かないで。急に、いなくならないで。

 そう、随分と勝手なことを思いながら、亜夢は顔の筋肉を緩ませていた。


しゅごキャラ!/さて、いつ伝えよう?■END