しゅごキャラ!/雨の日のお迎え


 雨が降ると、バイオリンの音が変わる。濡らしたくはないので外にも出せないし、室内で弾くと音が響いて仕方がない。

 昔から、幾斗は雨があまり好きではなかった。

 はぁ、と深く息を吐いて、駅の改札を出る。雨は止むことなく、ザーザーと音を立てていて。楽団の練習場にバイオリンを置いてきたのは正解だった、と思った刹那。

「お父さん!」

 パシャパシャという水音と共に、駆けてくる男の子がいて。その男の子の奥には。

「お帰り、イクト」

「……」

 幾斗は、自分の足元で立ち止まった男の子――かなでを軽々と抱き上げて、ゆっくりと亜夢に近づいていく。

「傘、持ってってなかったでしょ?」

「どうして、俺がこの時間だってわかったんだ?」

「勘、かな。何となく、今の電車にイクトが乗ってた気がしたの」

 亜夢の差す傘の中に入りながら幾斗が問うと、んー、と考えるように亜夢は答えた。それから幾斗の腕に自身の腕を絡ませて、寄り添うようにぴったりとくっつく。

「珍しいな、あむがそんなにくっついてくるなんて」

「う、うるさいな。いいじゃん、たまには」

 ぼっ、と顔を真っ赤に染めて、亜夢は強い口調で言い返す。もしかしたら、寂しかったのかもしれない。そう気づいてしまった幾斗は、嬉しそうに微笑みながら口を開いた。

「俺は、いつだって大歓迎だけどな」

「くしゅんっ」

 幾斗に抱えられた奏は、くしゃみと共に大量の鼻水を出してしまって。あらあら、と慌てて、亜夢はティッシュでそれを拭いてくれた。

「風邪、引いちゃったかな。さっさと帰ろ?」

「……ああ」

 愛する我が息子を腕に抱え、もう片方の腕には愛する妻が腕を絡ませてくれている。こういう幸せがあるのなら雨もそう悪くはないな、と長年抱いてきた雨への嫌悪感が和らいでいくのを、幾斗は感じていた。


しゅごキャラ!/雨の日のお迎え■END