しゅごキャラ!/ふとした孤独の隙間に


 ――…あむ?

 目の前にいるのは、確かに自分にとってかけがえのない愛しい少女なのに。

『あむ!』

 どんなに声を上げても、決して彼女は振り返ろうとはせず。それどころか、わざと幾斗から離れるように背を向けて歩みを止めようとしない。

『あ…――!?』

 手を伸ばして、追いかけようとした刹那。幾斗は、自分の足が地面に張りついてしまったかのように動かないことに気がついた。
 無理に動かそうとすれば、どういうわけか、どんどん身体が地面に沈んでいく。

(俺、死ぬのか……?)

 死を恐怖したことなんて、今まで一度もなかった。生きていることに大した執着もなかったし、死を迎えることが運命なのだというのならそれも構わないと思っていた。だが。

 それは、数年前の話だ。

『あむ……っ』

 非情の叫びは、決して助けを請うためではなく。ただ、亜夢をこの手に抱きたい。その一心だった。



「――あむ!!」

「わっ」

 それまで幾斗がいたはずの場所とは一変して、明るい空の下に幾斗はいた。隣には、驚いた表情の亜夢がいて。

「ビックリしたぁ。何? 急に大きな声出して。どうかした?」

 恐る恐る、幾斗は亜夢の頬に手を添えた。その幾斗の行動に、亜夢はますます目を丸くする。

「イクト? ……って、イクトっ!?」

 訝しげに首を傾げる亜夢を、幾斗は勢いよく抱き寄せた。鼻にかかる亜夢の髪の香りが、今、腕の中にいるのだという安心感を幾斗に与えてくれる。それに、幾斗はようやく安堵の息を漏らした。

「な、何!? どーしちゃったわけ!?」

 腕の中で挙動不審に狼狽うろたえる亜夢が、何故かとても愛しくて。ふ、と口元を綻ばせて、幾斗は亜夢を抱き締める腕に力を込めた。

「どーもしない。ただ、こうしていたいだけ」

「はぁ!?」

 納得できない、と言わんばかりの亜夢の表情が目に浮かぶ。きっと、顔は真っ赤に染め上がっていて。何とも言い難い表情をして、口をパクパクさせていることだろう。

 そんな表情の亜夢を見るのも好きだけど。今はもっと、亜夢の温もりを感じていたくて。

 幾斗はしばらく、そうして亜夢の温もりに酔い痴れていたのだった。


しゅごキャラ!/ふとした孤独の隙間に■END