しゅごキャラ!/雨の冷たさも感じない


「ひゃ〜。降ってきたぁ」

 パシャパシャと水音をさせながら、亜夢は鞄を頭の上に乗せて走っていた。すぐに止むだろうと思っていたのに、その雨はなかなか止まず。鞄で頭を隠してはいるが、あまり意味はなかった。

「……ん?」

 一瞬通り過ぎてから公園の人影に気づいて、亜夢は足を止めた。

「イクト?」

 公園の真ん中で、傘も差さずに空を仰いでいる。その姿が色っぽいだなんて思っている場合ではないだろうに、思わず見惚れてしまっていた。水も滴るいい男という言葉通り、全身を濡らした幾斗にはまたいつもとは違う色気があって。

「こら。何やってンのよ?」

「……あむ」

 ばん、と鞄で背中を叩いて、亜夢は話しかける。今更、どんなに鞄で頭を覆っていても無意味でしかない。

「風邪引いちゃうじゃん。早く帰ろ」

 ぐ、と腕を引いてみるが、幾斗は動こうとしない。もう一度、今度は力を入れて、ばん、と叩いた。

「聞いてんの!?」

「ああ」

 ちゃんと聞いてるよ、と亜夢に笑んで見せてから、幾斗は亜夢の頬に手を添える。どき、として動けずにいる亜夢の唇に、ゆっくりと幾斗のそれが重ねられて。一瞬、何が起こったのかわからなくなる。

「――雨って」

「え?」

「ずっと、嫌いだった」

「……」

 ぽつり、と幾斗は呟いて、徐に亜夢を抱き締める。幾斗の呟きが、何故かとても寂しく感じられて。きっと幾斗にとって、亜夢には計り知れないつらい思い出があるだろうことが窺える。

 幾斗の腕の中で顔を上げれば、幾斗の目尻に滲む涙。それが果たして本当に涙なのかは定かではないが、たとえ雨だったとしても、きっと心の中では泣きたいのではないだろうか。幾斗は今、そういう表情をしている。

 両手で幾斗の頬を包み、亜夢はぐっと背伸びをした。そうして幾斗を引き寄せながら、目尻についた雨を、ぺろ、と舌で舐め取る。

「止まない雨はないよ」

「……そうだな」

 驚いた表情をしたあと、すぐに安心した顔付きになって。亜夢を腕に抱いたまま、幾斗はしばらくその安堵の余韻に浸っていた。


しゅごキャラ!/雨の冷たさも感じない■END