しゅごキャラ!/鼓動は思うより正直で


「行くぞ、あむ」

「……え?」

 幾斗は、そう言って亜夢に手を差し出した。亜夢を見つめる優しい目に、ドキン、と胸が躍る。

「早くしろ。置いてくぞ?」

「ち、ちょっと待ってよ」

 言葉に焦り、亜夢は慌てて右手を伸ばした。ひんやりと冷たい、幾斗の手。どちらからともなく指を絡ませ合えば、尚更それを感じてしまった。

「……なんか、不思議」

「ん?」

 ぽつり、と亜夢が呟く。

「イクトの手って、すごく冷たい……のに。どうしてかわからないけど、心が温かくなる……」

 亜夢は、左手を胸に当てた。心音が、左手を通して自身に伝わる。繋いだ右手は冷たいのに、そこから温かさが全身に染み渡っていて。

 冷たい右手と、温かい左手。そのミスマッチでしかない状態が、不思議と亜夢をリラックスさせた。

「すごく、安心する」

 微笑んだ亜夢に、幾斗は一瞬だけ目を丸くする。それから、ふ、と口元を綻ばせ、繋いだ亜夢の手にそっと唇を寄せた。

「あむの手は、温かいな」

「……馬鹿にしてんの?」

 子供だから体温が高いのだと言われている気がして、亜夢はムッとする。
 繋いでいる手を離そうとしたがそれを制され、幾斗は自分の頬に添えさせた。

「違うっての。女の子の手だな、と思って」

「――…」

 いつも亜夢を子供扱いしかしない幾斗のその台詞に、亜夢は頬が紅潮していくのがわかった。

「ほっとする、こうしてると」

 どきん、と亜夢の心臓が波打つ。幾斗の頬と手の間に挟まれている、亜夢の手。恥ずかしいのに、でもずっとそうしていて欲しくて。
 わずかに、手が震えてしまう。

 対照的な温度ではあるけれど、それが互いを安心させてくれた。繋いだ指先から安寧を感じて、心地よさが全身に広がっていく。

「あたしね、イクトが……好き、だよ」

 自ずと、言葉が出てしまった。そう思うのは、ごく自然なことだったのかもしれない。壊れそうなほどに早鐘を打っている心臓が、ずっと亜夢に訴えているから。

「知ってる」

「ひゃ……っ!?」

 一笑して、幾斗は不意に亜夢を抱き竦める。驚く亜夢を気にもせず、幾斗は桃色の髪に顔を埋めた。ふんわりとした女の子の独特の甘い香りが、幾斗の鼻を掠める。

「もうとっくに、俺も……そうだから」

 徐に、亜夢は幾斗の背中に手を回した。華奢だと思っていた幾斗の身体は、やはり男性だからなのか。亜夢が思うよりも、ずっと逞しくて。
 手だけではなく、全身から魔法をかけられたように動けなく……いや、動きたくなくなってしまった。時間を忘れさせるほど、幾斗の腕の中が心地よくて。

 とくん、と亜夢の耳に幾斗の心音が響く。亜夢が思うよりも、ずっとそれは速くて。
 余裕そうになのに、もしかしたら幾斗も緊張しているのかもしれないと思ったら、急に幾斗が可愛く見えた。

 幾斗の手が触れているところが、熱を帯びてくるのがわかった。亜夢の背中と頭を支える左右の手から、幾斗の亜夢に対する慕情が伝わってくる。言葉だけでは足りないのか、亜夢もそれを幾斗に伝えたくて。きゅ、と幾斗の背中に回した手に、わずかに力を込めた。

 互いの心音が、互いに伝わる。決して重なり合わないその鼓動が、そこに相手がいることの大切さを物語っているようだった。


しゅごキャラ!/鼓動は思うより正直で■END