しゅごキャラ!/そんなんじゃ足りない


「寒ぃな、今日も……」

 はぁ、と口の前に持ってきた手を吐息で温めながら、幾斗がそう言った。

「ってか、そんなに寒いの苦手なのに、どうして手袋してないの?」

 半ば呆れたような顔つきで幾斗を見つめながら亜夢が問うと、あっさり、忘れた、と幾斗は答えた。はぁ、とため息を吐いて、亜夢は右手につけていた手袋を外し、幾斗に差し出してやる。

「一個、貸してあげる」

「……」

 黙ってそれを受け取り、幾斗は右手にそれをはめた。だがさすがに小学生の女の子の物である。高校生の幾斗にとって、それは小さくて仕方がない。

「文句言うな」

「言ってねぇだろ」

 考えを読まれてしまったのか、先に亜夢に制されて思わず幾斗は口元を緩ませた。無理矢理にはめた、小さな亜夢の手袋。そのきつさが心地いいなんて、傍から見ればおかしいかもしれない。

 幾斗は左手で亜夢の右手を掴み、自分の着ていたコートのポケットに入れた。

「こうすれば、温かいだろ?」

「そ、そんなの、イクトが嬉しいだけじゃん」

「当たり」

 紅潮させた顔を幾斗から背けて言った亜夢を眺めて、幾斗は笑む。

 亜夢が幾斗のために外してくれた手袋の代わりになるように、幾斗は繋いだ手に少しだけ力を入れた。裸になった亜夢の手から、温もりを逃がさないように。


しゅごキャラ!/そんなんじゃ足りない■END