しゅごキャラ!/上手なチョコの渡し方


「俺、チョコ好き」

「知ってる」

 いつも以上に亜夢に寄り添いながら、幾斗はそう囁く。
 だが亜夢は、幾斗を見ようともせずにひたすら、机に向かって宿題をしていた。

「今日、何の日か知らねぇの?」

「……知ってる」

 う、と言葉を詰まらせながらも、亜夢は答える。

「チョコ、は?」

「……ない」

「……」

 亜夢は、ポケットの中から小さな小さな包みを取り出して机の上に置いた。
 それをそっと手に取った幾斗から、はぁ、と残念そうなため息が漏れる。

「冷てぇな、あむは。今日は、大好きな人にチョコを贈る日だってのに。コンビニで買ったチロルチョコって、あんまりじゃね?」

「だ、誰が大好きな人なのよっ!?」

「俺」

 当然だろ、と言わんばかりの表情で、得意気に幾斗はそう言い切った。それから少し声を曇らせて、亜夢の肩に顔を沈める。

「……手作りの材料は、唯世のためだったってわけ?」

「!? な、何で知って……?」

「歌唄に聞いた」

「……」

 バレンタインチョコを手作りするために歌唄と買い物に行ったのは、つい先日のこと。
 気合を入れて、本を参考に頑張ったのだが。

 徐に机の抽斗を開けて、亜夢は可愛くラッピングされた袋を机の上に置いた。

「唯世くんに、じゃ……ないよ」

「わかってる」

 幾斗は、きゅ、と亜夢を抱き締めてから袋を手に取り、中に入っていた箱を開ける。
 そこには、食べるのも思わず躊躇してしまいそうなほどに不格好で歪なチョコレートらしき物が入っていた。

「本当、不器用だな」

「だ、だからあげたくなかったのよっ」

 亜夢が声を張り上げるのと、幾斗が亜夢の作ったチョコレートを口に放るのは同時だったかもしれない。
 もぐもぐと動く口に、亜夢はしばし言葉を失くしてしまった。

「……」

「何? 食べたい?」

 あまりにじっと見ていたため、幾斗が不思議そうにそう言った。思わず、首を横に振る。

「じ、自分でも食べたいとは微塵も思わなかった、から。……その」

「美味いぜ」

 ひょい、と新しくチョコレートを口に入れ、幾斗はそのまま亜夢の唇に重ねた。
 舌で亜夢の口の中にチョコレートを放ってやりながら、そのチョコレートを溶かすように舌を動かしてやる。そうして完全にチョコレートがなくなったのを確認して、幾斗は唇を離した。

「な?」

「……わかんないよ、味なんて」

 はぁ、とため息を吐いてから、亜夢は上目遣いに幾斗を見やる。

「今の、味……わかんなかった、から。もう1個、食べてあげてもいいよ」

「何個でも」

 亜夢の言葉に、ふ、と口元を綻ばせて、幾斗はもう一つチョコレートを頬張ってから亜夢に口付ける。

 幾斗にとって、不格好でも一生懸命作った亜夢の手作りチョコレートは、どんなにきれいで美味しいチロルチョコにも敵わないのであった。


しゅごキャラ!/上手なチョコの渡し方■END