しゅごキャラ!/赤ずきん
あるところに、赤い頭巾がとても似合うアムという女の子が住んでいました。ある日のこと、アムの母・ミドリは、アムを呼んで言いました。
「アムちゃん。お祖母さんがご病気になってしまったの。お見舞いに行ってあげてくれないかしら」
「うん、わかった」
「それじゃあ、このケーキと、上等なブドウ酒を一本持って行ってね。いい? 途中で道草なんかしないのよ。それから、オオカミさんには用心して。オオカミさんはどんな悪いことをするかわからないから、話しかけられても知らん顔するのよ」
「はいはい、わかってるって」
強気なアムは、そう言って出かけて行きました。
「こんにちは。赤い頭巾がよく似合う、かわいい赤ずきんちゃん」
アムが森の中を歩いていると、オオカミはニコニコしながらアムに話しかけてきました。
「イクトがオオカミって、正にはまり役だよね」
「……台本にない台詞を言うな」
アムの言葉に、がく、とイクトが項垂れます。
「ところで。今から、どこへ行くんだ、たった一人で?」
「お祖母ちゃんのお家よ」
「その祖母さんの家って、どこなんだ?」
「森のずっと奥の方。ここから、歩いて15分くらい」
アムの言葉にイクトがほくそ笑んだのに、アムは気づきませんでした。
アムと別れたイクトは、そのまま真っ直ぐ、目にも留まらぬ速さでアムのお祖母さんの家へ行きました。
トントン、とイクトは扉を叩きます。すると。
「イクト~ぉ♥」
ウタウが出てきて、イクトに抱きつきました。
「イクト、イクトぉ♥」
「……歌唄」
猫撫で声で、ウタウはぴったりとイクトにくっついて離れません。その時。ずきゅーん、と銃声が鳴り響いて、幾斗の頬を掠めました。
「何するのよ、空海!?」
イクトの首に腕を絡めたまま振り返って、ウタウは銃を携えた猟師のクウカイを睨みます。
「つーか、離れろよ、お前! ブラコンにもほどがあるんだよっ」
「イ・ヤ」
べ、と舌を出して、ウタウは更にイクトに密着します。
「唯一、イクトとあたしの絡みのシーンだもの。あたしが、イクトに食べられちゃうのよ? こんな機会、滅多にないわ」
「しょっちゅうあっても困るんだよっ」
苛立ち、クウカイはイクトからウタウを剥ぎ取ると、ウタウの手を掴んだまま森の奥へと姿を消しました。イクトに食べられるはずだったウタウを、一体どこへ連れていこうというのでしょうか。
「藤崎、話を先に進めろ!」
……。
ウタウを食べたイクトは、ウタウの家で、アムを待つことにしました。ベッドの中に潜り込んで、頭からシーツを被ります。
ようやくウタウの家に辿り着いたアムは、家の戸が開いていることに疑問を感じました。
「どうしたんだろ? いつもは閉まってるのに」
アムは、恐る恐る家の中に入ります。奥のベッドに、膨らみがあります。きっとお祖母さんが寝ているのだろう、と安易にアムはベッドに近づきました。
「こんにちは」
アムが声をかけると同時、ベッドからイクトが出てきて、アムの腕を掴みます。
「やぁ、お嬢さん。また会ったな」
間近にイクトの顔が迫ってきて、どくん、とアムの心臓が高鳴ります。
「イ、クト……?」
そっと、イクトがアムの頭巾に手をかけて、それを解きます。ぱさ、と頭巾が下に落ちました。アムの心臓は、鳴り止みません。
イクトの手が、アムの頬に触れます。そうして親指で唇をなぞって、アムの羞恥を更に高めていくのでした。
いつもこの森で狩りをしているクウカイが、ウタウの家の前を通りかかりました。いつもは聞こえない声が、ウタウの家から聞こえてきます。
「こんなにデカイいびきを、一体誰が……?」
訝しげにクウカイはウタウの家に近づきました。そうして戸を開けようとしたクウカイの頬が、一瞬にして赤く染まります。
「あ、開けれるかーっ!!」
大きなクウカイの声が、辺りに響きました。クウカイが聞いた声は、きっといびきではなく、もしかしたら愛の営みの声だったのかもしれません。
「かもじゃなくて、そうだったんだよっ」
……。
相馬くん。ナレーターに話しかけるの、やめてもらえる?
「その前に、あっちの二人を何とかしろっ」
いや、それは無理でしょう。そうなっちゃった二人は、満足するまで止められないって、相馬くんも知ってると思ってたけど?
「……」
図星を指されたのか、クウカイは口を閉ざしてしまいました。
「いきなりナレーターに戻んじゃねぇ!」
きっと、もうしばらくすれば、お腹いっぱいになったイクトが家から出てくるのではないでしょうか。満足したイクトは、そのまま足を滑らせて湖に落ちて溺れることなく、ウタウの家でアムと幸せに暮らしました。おしまい。
「勝手に終わらせるなー!!」
だって、仕方ないでしょ? こうなったら、無理に終わらせるしかないよ。さっさと打ち上げしようよ。
「……」
「行きましょう、空海」
ウタウに手を引かれ、嬉しそうにクウカイは歩みを進めます。何か言いたそうな顔をしていますが、特に気にすることもないでしょう。
アムとイクトの邪魔をしないよう、皆はその場を去っていったのでした。
しゅごキャラ!/赤ずきん■END【アフタートークへ】