しゅごキャラ!/目が覚めて思うこと


 すー、すー、と規則正しい寝息だけが部屋中に響いていた。
 徐に目を開ければ歌唄の可愛い寝顔が映って、反射的に空海は歌唄を抱き竦めた。
 愛しくて堪らない。こうして抱き締めていても、その腕を擦り抜けていなくなってしまうかもしれない不安に襲われた。

 でもそれよりも、今腕の中にいる安らぎの方が勝っていて。そのまま、また空海は夢の中に堕ちていく。

「ん……」

 安眠に浸っている中、不意に息苦しくなって歌唄は目を覚ました。夢現の中、心地いいリズムが歌唄の耳に届く。それが心音だとわかるまで、そう時間はかからなかった。

「……空海」

 身体を揺すってみるが、まったく起きる気配を感じられなくて。そっと腕の中から逃れようとすれば、それを引き留めるように更にきつく抱き竦められてしまった。若干の尿意を催しているため、何とか離れたいのだが。

「ねぇ、空海」

 逃げられないように、空海は夢の中でもがっちりと歌唄を掴まえていて。歌唄の腰に嵌まった腕は、なかなか外れそうになかった。

「……」

 安心しきったような空海の寝顔に、歌唄は思わずため息が零れる。トイレに行きたいはずなのに、そんなことはどうでもよくなってしまって。
 そっと空海の頬に手を寄せれば、ゆっくりとその目が開かれた。

「おはよう、空海」

 空海の眼に、歌唄の溢れんばかりの笑みが映る。それに応えるように、空海もまた満面に笑みを浮かべた。

 目覚めと共に、愛しい歌唄の体温を身体中で感じる。それが、こんなにも心地いいものだとは知らなかった。
 快い目覚めを知ってしまった後では、一人で目覚めるのはひどく心細いかもしれない。いつもそうだったはずなのに、一度知ってしまった幸せは更にそれ以上を求めてしまう。贅沢だと思いつつも、これが日常であって欲しいと願ってしまった。

「いいな、こういうの」

 優しく頭を引き寄せて、空海は歌唄の髪に顔を埋める。

「何が?」

 きょとん、とした表情で歌唄が問うと、少しだけ歌唄を離して空海は額に口づけた。それから穏やかな表情で歌唄を見つめる。

「目が覚めて、歌唄が腕の中にいる。まだ半分夢の中にいるみたいだけど、すげー幸せ」

「……空海」

 白い歯を覗かせながら、言葉通り本当に幸せそうに空海は笑った。とくん、と空海の言葉が歌唄に沁みていく。同じことを思ってしまったのが、少しだけくすぐったい。でも逆に、それがとても嬉しくて。
 ありがとう、と微笑めば、宝物でも抱き締めるかのように優しく、空海の腕が身体に絡みついてきた。

「あたしも、同じこと……思った」

 空海の背中に手を回しながら、歌唄が口を開く。同じタイミングで幸せの瞬間を感じたことが、より一層その思いを大きくさせて。
 歌唄は、目頭が熱くなるのを感じた。これから先も、色々な瞬間の幸せを一緒に見つけていきたい。歌唄は、空海の腕の中でそう願っていた。


しゅごキャラ!/目が覚めて思うこと■END