花より男子/白雪姫
針仕事の最中、王妃・チエコは、誤って針を指に刺してしまいました。鮮血が、白い雪の上に滴りました。
その様子を見て、チエコは、肌は雪のように白く、唇は血のように赤く、髪は黒檀のように黒い子供が欲しい、と願います。
そうしてチエコの願い通りの女の子が、まもなく誕生しました。ツクシと名づけられ、優しい父・ハルオとチエコに囲まれて、健やかに成長しました。
ですが、ある日突然チエコが死に、不憫に思ったハルオは、サクラコを新しい后として迎えることにしました。ところがこの継母・サクラコは、自分が世界中で一番美人でなければ気がすまない人でした。
サクラコは、職人に魔法の鏡を作らせ、その鏡にシゲルと名づけました。そうして、シゲルに向かって、こう訊ねます。
「シゲル。世界で一番キレイなのは、誰?」
『はい。それは、ツクシ姫でございます』
「……ツクシ、ですって?」
シゲルの言葉に、サクラコの顔が歪みます。
「ここに、猟師はおらぬか!?」
サクラコの声に反応して、一人の猟師・ソウジロウがサクラコの前に跪きました。
「お呼びでしょうか、王妃さま」
「ツクシを森へ連れて行き、殺して肝臓を取って来なさいっ」
「……えげつないこと考えるよなぁ」
ぼそ、とソウジロウが呟きます。
「何か言いました?」
「いえ、別に」
サクラコが、ぎろ、と睨むと、目を反らしてソウジロウはツクシの元へ向かったのでした。
◇ ◇ ◇
「ねぇ、猟師さん。どこへ向かっているの?」
「いいトコ♪」
ソウジロウに手を引かれながら、ツクシは森の中を歩いていました。どれほど歩いたのでしょうか。辺りは薄暗く、案内なしには無事に城に着けそうもありません。
ようやく立ち止まったソウジロウは、振り向いてツクシに笑顔を向けます。
「やっと二人きりだね、つくしチャン?」
「!?」
ソウジロウの言葉に、ツクシは後退ります。
「に、西門さん……?」
「俺、今は猟師だから」
にっこりと、ソウジロウは微笑みます。そうして、木に背をつけたツクシに、ゆっくりと歩み寄るのでした。
そのとき。
『総二郎、ちゃんとやりなよね』
すぱーん、と乾いた音が響いて、神様の声が聴こえてきました。足元を見れば、そこにはソウジロウの頭に当たったであろうスリッパが、落ちていました。
「ったく。この時代に、スリッパなんかねぇっつーの」
頭を擦りながら、ソウジロウは猟師としての仕事をこなすため、近くにいたイノシシを持っていた鉄砲でしとめます。そうしてツクシの見ている前で、そのイノシシを解剖して、肝臓を取り出したのでした。
「じゃあな、牧野――…じゃなくて、ツクシ姫。達者で暮らせよ」
ソウジロウの背中を見送りながら、ツクシは森の中で一人にされてしまったのでした。ソウジロウを追いかけようかとも思いましたが、貞操が危険に晒されるかもしれない、と思うと、足が動かなかったのです。
◇ ◇ ◇
「はぁ、疲れた……」
3日3晩、森を彷徨い続けたツクシは、森の中に、それはそれは似つかわしくない大きな家を発見しました。徐にその家の中へ足を運ぶと、とても豪華そうな家具が飾ってあり、ツクシよりも裕福な人物が住んでいるのだと、説明されるまでもなくわかってしまいました。
「ここで、休ませてもらおう」
歩き続けた疲れがピークに達していたツクシは、四つ並べられた、大きくて豪華なベッドの上に寝そべったのでした。
しばらくして、家の主である小人とはとても呼べない、大柄な男たちが戻ってきました。ドアを開けて、ベッドに横たわるツクシの姿に、男たちは驚きます。
「何だ、こいつ? 人のベッドに、勝手に……」
チョココロネのような髪型をした男・ツカサが、ゆっくりとツクシに近づきます。それを制してビー玉のような瞳のルイが、先にツクシの元へ歩み寄りました。
「牧野。おはよ」
「?!」
頬にルイの唇が触れて、ツクシは慌てて目を覚まします。
「類、てんめーっ!!」
ツカサが熱り立つのを無視して、ルイはツクシを抱き寄せました。
「いいじゃん、別に。原作では、俺のけ者だったんだから」
「そういう問題じゃ、ねー!!」
暴れるツカサを、サラサラヘアーのソウジロウ(2役)と落ち着いているアキラが、何とか抑えます。
「類っ。お前、人にはちゃんとやれって言っといて!」
「俺以外が牧野に触れるなんて、許せないんだよね」
ソウジロウの言葉にも、ルイは耳を貸そうともしません。
「……花沢類」
「ん? 何?」
落胆したツクシを、ルイは、きょとん、とした顔付きで見つめます。そして、わかった、と言わんばかりに、口を開きました。
「ほっぺじゃなくて、口がよかった?」
「は?」
ありえない、と顔を歪めてルイを見たツクシの唇に、ルイのそれが重なりました。ぶち、とツカサの血管の切れた音が聞こえます。
「もぉ、勘弁ならねぇ……」
地を這うような声を、ツカサは発します。
「類っ、表に出ろ!」
「嫌だよ、面倒臭い」
ツカサの怒りも、ルイはものともしません。
「つーか、みんな真面目にやってくれー!!」
悲痛なアキラの叫び声が、家中に響いたのでした。
花より男子/白雪姫■END【アフタートークへ】